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| 慶應義塾大学法学部で外国語を学ぶ

教員紹介

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  • 三瓶 愼一
    三瓶 愼一

     いろいろな外国語がほんの少しでもできることは楽しいものです。たとえばイスタンブールでトルコ語を,コペンハーゲンでデンマーク語を,プラハでチェコ語を使ってみれば,土地の人と仲良くなれること請け合いです。もとより完璧であるわけないし,そんなことはちっともかまわないのです。相手の微笑む顔を見て,ああ良かったと思う瞬間。「こんにちは」「お願いします」「ありがとう」・・・これだけでもぐんと世界が広がりますが,時間とともに少しずつスムーズなコミュニケーションが可能になっていきます。一方,地球のあちこちで,日本語ができる土地の人と出会ってびっくりすることもたびたびあります。これらは,もしも最初から英語だけで済ませてしまっていたら,決してできない得がたい経験でした。

     大学1年生の時は,NHKで当時放送していたすべての言語のテレビ講座とラジオ講座を同時に1年間毎日欠かさず視聴しました。テキストを買って「視聴」し,まねして発音していただけでも,それぞれの言葉の響きやしくみはなんとなくわかるようになりました。こんなことも時間と体力のある大学生だからできたことで,もっと続けておけば良かったなあと今は思います。でもポリグロット(いろいろな言語ができること)は,あまり私には向いていないようです。

     私の専門であるドイツ語も,高校2年生の4月に,実はNHKのテレビ講座で独学で始めました。テレビ講座は詳しい文法の説明をしないので,だんだんわからなくなります。最初の段階で授業で先生に教わったことがない私は,学んだことを自分なりにルールとして整理して抽象化し,自分に説明できるように言語化して理解するように努めてきました。それでうまく行かない実例に出くわすと,その都度ルールを修正しながら進んできました。そのため,その後教える立場になっても,初学者がぶつかる問題は何か,一般の教科書はどこが不十分かなど,すべて実体験に基づいて考えながら,これまでドイツ語教育に携わってきたわけです。

     早大法学部に在学中の3年生の時に,当時の学部学生が留学するためのほぼ唯一のチャンスだったサンケイ・スカラシップという奨学金を得て,ドイツ語学とドイツ語教育を学ぼうとミュンヒェン大学に留学しました。それまで学んでいた標準ドイツ語と12〜13世紀の中高ドイツ語に加え,標準ドイツ語とは全く異なる現地バイエルンの方言の洗礼を受けて,当初はかなり苦労したのでした。ところが,方言にはいまだに古い言葉の形が残っていて,現代の標準語↔古語↔方言のトライアングルから,はじめてその言語の全体像が立体的に見えてきます。う〜む,これは面白い! ひとつの言語を深く学ぶことの醍醐味です。それに加えて他のヨーロッパ言語や日本語との関係などにも触れながら,ドイツ語を楽しく勉強してきました。物心ついてから外国語として学び始めたのですから,あいにく完全な母語話者(ネイティブ)の域には達しません。でもドイツ人に母語話者と間違えられることもあります。苦労して学んできて本当に良かったと思える瞬間です。どの言語であっても,学んだだけ自分の人生が豊かになる。だからこそ面白いのです!

    三瓶 愼一 この慶大法学部に勤めるようになって,カリキュラム改革に携わり,社会科学を学ぶ学生のためのドイツ語インテンシブコースを1993年に立ち上げました。自分が社会科学を学んだことが役立ち,さらに学生時代の自分なら切望したであろう要素をすべて盛り込んだほぼ理想的なドイツ語の学びの場ができました。このインテンシブコースの歴史ももう四半世紀を越えました。カリキュラムをそのコンセプトから考えることを契機に,社会と言語,外国語の学習・教育の社会的な意味を考えることにも力を注ぎました。そのため2009〜2013年には国際ドイツ語教員連盟の副会長として,世界全体のドイツ語教育の充実を考え,日本を含む北東アジアや東南アジア,アフリカなどのドイツ語教育を支援する機会を与えられましたが,これも良い経験になりました。

     とはいえ,私自身にとって最も楽しい居場所は授業の教室です。学生のみなさんと一緒に,人間の思考や思想の一端としての言語の構造を考えることも楽しいですし,正しく商品価値のある日本語訳に向けてみんなで知恵を絞ることも知的な遊戯です。それ以外にも,いかに美しくドイツ語の詩を朗唱するか,いかに自然にドイツ語で演じるか,ドイツ語という言語で遊んだり,ドイツ語で怒ったり,悲しんだり,喜びを爆発させたり,そういう感性のほとばしりを,日々の授業や夏の合宿でみんなで追及してきて,はや40数年になります。教員としては30数年ですが,自分が学生であった頃からその姿勢は一度も変わっていません。その意味で,自分はずっと学習者であり続け,ちょっとだけ先に学び始めた人間として,毎年4月に迎えるフレッシュな1年生の今後の佳き学びを支えていきたいと思っているのです。

各言語と授業を知ろう

Features of each language and the language classes